喫茶店を出て、電車に乗り塾の跡地に行きました。閉塾処理はあらかた終えていますが、まだ建物の出入りは可能です。
塾に着いて二人で中に入りました。教室の中はガランとしてあり、残しておいた椅子に座ります。無言の時が流れ、この段階になっても彼女の意図は分かりませんでした。
数分後、彼女が生徒にやっていたような授業を見せてほしいと言いました。私は生徒もいないのに、そんなことできないよというと、私が生徒になるからと譲りません。
テキストがない環境、ソラで授業しやすい科目といえば歴史かと思い、日本史の授業をします。彼女は黙って聞いており、目は真剣です。
授業を終え、まぁこんな感じでいつもやっていたよというと、彼女が拍手し私は困惑しました。
しばし沈黙が流れた後、彼女が話し出します。彼女の実家に挨拶にいったときのことです。何か私に粗相があったのだろうか。それにしても、今更感はあります。
実は、彼女の家庭環境は多少複雑であり、人によっては結婚の障害になりうるものでした。私は彼女の家庭環境について一切気にしていないと伝えています。
もしかしたら(私の実家が)嫌になっちゃったのかと思ってと彼女はいいます。つまり、私が彼女の家庭環境を嫌って嘘をついてまで婚約を辞めたと思っていたのか……
閉塾したということが私の嘘だと思っていた?と聞くと、ううんといいました。そこから少し間がありました。
ここで関係ない話しをしたり、質問攻めにしたりしても意味がないので、じっと待ちます。今日彼女は私に何か言いたくて……もしくは何かを確認したくて会いに来たのだ。
人間関係は、出会いよりも別れのほうが重要です。良い別れ方をすれば後からいい思い出になり、悪い別れ方をすれば一生引きずりかねない。
この日をもって彼女と二度と会うことはないだろう。つまり挽回の余地はないということです。だからこそ、慎重にならなければならないと自分に喝を入れました。