離婚危機 義兄の本音

不倫相手の外見にびっくりする
素人探偵の日々が始まりました。義兄がオフィスから出る時間帯を姉から聞いて、張りこむことにしました。交通費などの経費は姉持ちです。変装して誰かを見張っているだけで探偵になったような気がします。と余裕があったのも最初だけで、ただ一点を見張るとい...

バーで若い女性との逢瀬を確認した私は義兄の不倫を確信しました。しかしながらその時は、ラブホにいくことはなかったので、決定的な証拠は掴めません。その後も何度か会社で探偵ごっこをやったのですが、空振りでした。

姉が泣いている姿を見て、なんとかしてしてやらないとと頑張りましたが、そもそも義兄は悪い人間ではありません。私のような社会落伍者に、内心はともかく表面上は丁寧に接してくれている人格者。

仮に離婚という結果になったとして、妻や娘が露頭に迷っていいと考えるタイプではない。

ない……はず……

となるとやるべきことは義兄と直接話すべきことなのではないか?ラブホに入る瞬間を撮るために探偵ごっこをすることに辟易していた私は、違うやり方で現状を打開しようとしました。

私は義兄に電話しました。私から義兄に電話することは滅多にないので緊張します。電話は繋がりませんでしたが、30分後、折り返しで着信がありました。

私は腹を決めて姉のことで話したいことがあるので、いつでもいいから時間をとってもらえないか?と丁重に話した結果、了承してくれました。

当日、義兄と駅前で待ち合わせをします。久しぶりに話す義兄はいつもの義兄でした。

個室がある居酒屋に入店します。支払いは義兄持ちなので申し訳ない気持ち……ということもなく、まぁいいかという感じでした。

お店の雰囲気は、間接照明がいい感じでオシャレで、漆塗りの卓は重厚な雰囲気を醸し出していました。店員さんは茶髪でピアスのため、雰囲気にそぐわない感じでしたが、飲食店はどこも人手不足と聞くので、外見を制限したら人が集まらないのかなと思いました。

適当に注文した後に本題に入ります。

私は姉が(義兄の)ラインを見て不倫を疑っているということと、正直に証拠を掴むために張り付きをしたときに、バーで女性と会っていたことを告げました。

すると義兄は無表情でレモンサワーを飲みます。何か話してくれるかと思いますが無言です。

私は義兄はその女性とは本気なのか、本気でないなら姉にはなんとかいって誤魔化すから、会うのをやめてくれないかということを言いました。

義兄はしばらく無言の後話しだしました。

それで奈緒美(仮名)はなんといってたの?
私は姉がずっと家族のために頑張ってきたのに何でこんなひどいことができるのかと泣いていたというと、義兄は今までに見たことがない表情になりました。そして溜息をつきます。

家族のため?あほか……どうしょうもないな……と言います。
その言葉を聞いて、私は底知れぬ恐怖を覚えて黙ってしまいました。

義兄は言います。「チャー君さ、この世の中で犯罪以外で一番罪が重いことって何だと思う?」

まったく想定しなかった問いかけに言葉が詰まります。家族や友人に対しての裏切りとかですかね、私はなんとか答えました。

「裏切りね……まぁ広義の意味ではそうだよ。それじゃ家族に対しての裏切りのなかで一番やってはいけないことって何だと思う?」

そりゃ不倫とかじゃないですか?と言いました。だから姉も義兄に裏切られたと泣いていたのだろう……とはいいませんでした。

「違うよ、全然違う、まったく話にならない」

義兄はもったいぶってるというより、言いづらいことがあると感じました。しかし、不倫以上の裏切りなんてあるのだろうか?そして次の言葉を聞いて私は心臓をわしづかみにされたような感覚を覚えました。

「家族の対しての最大の裏切りってね、親が子供を愛さないことだよ」

義兄の不倫の話をしたつもりが家族の愛の話になって私は混乱していましたが、同時にいろいろ思い当たることがありました。義兄は話をここで横に逸らします。

チャー君、僕は君のことを頭が良い人だと思ってるし、人間的にも好感を持ってる。だからこうして話があるといわれてすぐに席も用意した。

これは盛大に落とす前振りだなと思いました。

「それでも君の生き方はどうかと思ってる。この際だからいうけど、いい大人が家庭教師だの日雇いで生計をたてるなんて恥ずかしく思うべきだし、僕はそういう生き方をしている人間のことを自分と対等だとは思えない。君は楽な方向に逃げているだけだ」

義兄の私への論評は的を射ているし、まぁ本音はそうだろうなとは思っていたので、むしろなぜわざわざ言うのだろうか?と思いました。おまえのような取るに足らない人間が自分に意見をするなということだろうか?しかし話は意外な方向にいきました。

「僕は君と奈緒美(仮名)の関係を前から苦々しく思ってたんだ。いい大人が姉の家で物をせびるのもどうかと思うし、それを窘めてるようで、実は頼られて喜んでる奈緒美もどうかと思っていた」

ぐうの音もない正論であり、何も言えませんでした。一応物を貰うときは草むしりや電球の取り換えや猫のトイレ掃除などの雑用はしているのですが、そんなことを言える雰囲気ではない。

とはいえこの時点では不倫のことから話をそらしたいだけなのでは?とも思っていました。

「でもそんなことは些細なことなんだ。奈緒美が君を援助して満足するなら、それでいいんだ。僕が気に入らないのは奈緒美は君に対してですら愛情をもって接しているだろう?すらっていうのは弟にすらって意味だよ。普通さ……成人した兄弟なんてもっとドライに接するのが普通だろ?それなのになんで自分の娘をあんなにないがしろにするんだってことが本当に信じられない」

私はそうか……と思いました。姉はメイちゃんに対してのあたりが強い……

「奈緒美のメイへの態度は酷すぎる。それでもそれだけだったら、そういう人間なのかとも思う。でもレイには優しいし、君に対してもだ。何度も改善するように言ったけど、そんなことはない、私は娘たちに平等に接しているの一点張りで話にならない。それじゃ個別のことを話しても、あなたが甘いからしつけをしているだけといって、あんなのはしつけじゃないだろう!というとヒステリーを起こす」

義兄はここで黙ります。心の痛みを伴うことを話していると感じたので、間が置いても話をせかすことはしませんでした。

「チャー君が娘たちに親身に接してくれていることには本当に感謝している。うちから物を持っていくとかは、そのことを考えたら本当に些細な事だよ」

私はその言葉を聞きながらウーロンハイを飲みました。義兄は私をでかいネズミかなんかだと思っていたのか……まぁそうか……でもそのネズミは草むしりをすると心の中で返答しました。まぁそれでもネズミが草を食べるヤギになっただけかもしれない。

少々考えた後に私は言いました。メイちゃんのことは分かります。義兄さんが家族のことをこうして話してくれたことに感謝もしてます。でも今回の不倫の話と何か関係があるんですか?と言いました。

「奈緒美には何度言っても改善しないし、家に帰ってメイに辛くあたるのを見ると、本当にやるせなくなるし、あいつが許せなくなるんだ。でもそれで夫婦喧嘩になったら娘たちが萎縮するし、実際何度も喧嘩になった。だから僕は全部諦めて外で食事を済ますようになった」

義兄はいつも家にいません。私は社畜だからそれが普通なのだろうと思っていましたが、そうではなかった……いやそんなことは当然考えるべきだったのにと私は自分が世間知らずで思慮が浅いことを再確認しました。しかし酷だがそれならなおさら父親が愛情を注ぐべきではないか?また、それで不倫をするのは言い訳ではないかと思いました。

「若い女と不倫しているってことだったね。もう取り繕うことなく言うけど、あんなのはただの売春婦だろう?パパ活とかいってるけど、ただのバイタだよ。風俗いくのと変わらない。ただだからといって許してくれというつもりはないよ。どうしても許せないというなら離婚もしょうがないと思ってる」

それにしてはデレデレしてたよな……と思いましたが、そこは置いておきました。とりあえず性欲と金で繋がってるだけの関係であり、本気ではないようなので安堵したのが半分と離婚もしょうがないと思ってるという言葉に不安が半分といった感じです。

「奈緒美がなんでこんな酷いことができるんだと言ったといったんだよね。僕は奈緒美に同じことをずっと思っていたんだ。夫とか妻なんていうけど所詮他人なんだよ?でも娘は違うだろ、メイがあんな露骨な態度をとられても、お母さんお母さんってあいつを慕っているのを見ると泣けてくるんだよ……あの子は母親のことが大好きなんだ。なのに本当になんであんな酷い態度をとることができるんだって」

「チャー君はどう思う?最近は僕より君のほうがずっと傍で見てきただろう。なんで奈緒美はメイにだけなんであんな辛くあたるんだと思う?」

私は義兄に話しました。メイちゃんが小学校のころ些細なことで怒られて泣いて部屋に引きこもったことがあり、私はそのとき生涯で一番姉に激怒され縁を切られそうになったと。

姉に、メイちゃんはすごく可愛くて自慢の娘だろうに、なんで嫌うのか理解できない。あんな些細なことで怒るのは理解できないし、はっきりいってどうかしているよ、というと姉は、おまえは!おまえは!!!といって泡を吹きそうなくらい激怒して、出ていけ!!もう二度とうちにくるな!と追い出されました。

義兄は今までで一番興味深い話を聞いたというような表情でした。

「そうやって奈緒美が君に怒ることは珍しい?」

と聞いてきたので、姉は私に嫌味はいうが基本怒ることはない。しかしメイちゃんに対しての態度に苦言を言うと怒りだすが、このときは普段と違い異常な感じだったと言いました。

私はここで自分なりに考えた推測なんですがと前置きして話します。この時激怒した理由として、メイちゃんのことを可愛いといったことが真に姉が激怒した理由ではないか。

姉は幼いころの親戚の集まりのときに祖母に従姉妹と比べて容姿が劣ってると貶されていました。従兄娘は可愛いけど、あんたは可愛くないねと……そのことで何度も泣いていたのを覚えている。

忘れられない記憶があります。

祖母の葬式のとき、棺桶に入った遺体。大人たちが何かの理由で場を離れて、私と姉で二人きりになったとき、姉は遺体を殴っていました。私はそれを見て慌てて見張りのようなことをしました。その間、姉は無言で祖母であったものを殴り続けていました。

メイちゃんとレイちゃんを比較してメイちゃんの方がかわいいといったママ友に対して激怒してママ友グループから追い出したという話を聞いたことがあります。
それに対しては、怒って当然だと思ったんですが……

こうやっていろいろ話しているうちに、いつしか私も義兄のパパ活よりも、姉とメイちゃんの確執のほうがはるかに深刻だなと思ってしまいました。いや……その両者を比較するなら、当然なんですが、まさか不倫と結びつくとは思いませんでした。

私は更に続けます。

姉は従姉妹と娘をダブらせているのでは?
メイちゃんが可愛いといわれるたびに、祖母に容姿を貶されたことがフラッシュバックするのでは?私はそう言いました。義兄はそんなことがあるのか……と絶句しました。
義兄は自分の家族観について話しだします。

「僕の母親は親ばかでさ、まぁ今思えばだけどずいぶん可愛がってもらった自覚はあるよ、母は姉のことも本当に愛していたと思う、だから奈緒美がメイを可愛がらないのが本当に信じられなくてショックで……母親は子供を無条件で愛するものじゃないのか?って、いや息子ならともかく、娘ならなおさらかわいがるものじゃないのかって、それが自分のコンプレックスだかで嫌悪する?なんだよそれ……」

一時期母が娘を嫌悪するなんてことがあるのだろうか?と図書館で関連の専門書を読み漁ったことがありました。



話したことは私の推論なので正しいかどうかは分からないし、今後分かることもないでしょう。義兄の話は続きます。

「メイを寮に入れようとしたことあっただろう?あのとき僕はそんなことをするなら離婚してメイと僕で暮らすといったんだ。そうしたら渋々諦めた、チャー君も猛反対したって奈緒美はいってたよ、改めて言うけどありがとう本当にありがとう。僕はあのときすぐに感謝の言葉を伝えるべきだった」

今思えば姉とメイちゃんは離れたほうがよかったかもしれない……と思いましたが、口には出しませんでした。
私の価値観として義兄がパパ活なり風俗通いをするのはたいして何も思わない。姉が傷ついているからどうにかしなければならないと感じただけで……

一方、姉とメイちゃんの確執にはずっと心を痛めていました。いやメイちゃんには何の咎もないので確執とはいえない。一方的な憎悪だ。

しかしながら姉はこのことになると激怒して話にならない。

手術で除去しなければならない腫瘍があるが、臓器と癒着しすぎて無理にとろうとすれば、患者が死亡する。

姉の心に巣食ったトラウマはそういった類のものなのだろうと思い、私は姉をどうにかしようとするのは諦めました。

それにしても……家族ではない私でさえ心を痛めていたのだから、義兄が気を病むのは当たり前だろう……

にもかかわらず義兄は社畜であるというレッテルを貼って、家に帰ってこないことを疑問に思わなかった。あの家にはまったく父親の匂いがなかった。だからこそ私は自分の家のように入り浸り、大きなネズミになっていた。

私は探偵ごっこをしていた自分が恥ずかしくなりました。



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姉一家

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